家紋の深遠

 家紋とは、広辞苑によると、「代々その家に伝わる家のしるし」のこと。女性の黒留袖や男性の紋付はかまなど、和装の正礼装には必ず家紋を五箇所に付けます。

  家紋の風習は、平安時代の初期、公家が輿や衣服に使用したことから始まります。戦国時代になると武士が紋を持つようになり、江戸時代には庶民にも広がりました。

 植物や動物、天文、文字などをモチーフにさまざまな紋が考案され、その種類は5000を超えるとも言われています。

 紋も私にとっては、着物を着るようになって初めて目に入ってきたものです。たいていは左右対称ですが、まれに蝶など、不対称のものもあります。また、球体に描いてあるものを二次元で表現したようなデザインのものもあり、発想にはっとさせられたりもします。

 女性が着物につける際は、嫁ぎ先の家の家紋を入れるのが一般的です。うちの紋は五山の桐(ごさんのきり(下図))で、紋の定番ともいえる有名かつ一般的な紋です。桐の葉の上に、三、五、三の花を配した紋です。

五三の桐の紋

 母の留袖には、すべてこの紋が入っています。
ところが、たんすの中に、不思議な紋の入った着物がありました。祖母の訪問着です。
「変わった紋ね、葵のご紋みたい」とY先生。三枚の葉っぱ中心で合わさっているような紋でした。確かに、水戸黄門のあの紋所の紋と、似ているような気がします。

カタバミ紋

 Y先生にも正確な名前はわからないとのことで、家に帰って調べることにしました。
葵の御紋。もしかして実は私は、徳川家の末裔なんやろか?父方にも母方にも農民と商人しかいないはずなのに。いやでも、まてよまてよ・・・・・・。

なんだかハイソな血の香りに、ひとりいろめきたつ私。紋を見せて母に聞くと、

「下がり藤や」とひとこと。藤? これが?
「でもこれ、どう見ても藤に見えへんことない?」
「でも、そのはずや」
「上がっても下がってもないことない?」
「でも、うちの実家の家紋は下がり藤だったから」

・・・・・・もう結構です。

 頼るべくは、母よりインターネットの家紋のサイトでした。調べること数分で、すばらしい家紋のサイトにたどりつき、この紋が何かわかりました。これは葵でも藤でもなく、片喰(かたばみ)紋というものでした。

  片喰という字面といい音の響きといい、まだ見ぬ珍獣を連想させますが、正体は誰もが見たことのある雑草です。酢漿草とも書き、字が表すとおり酸味があります。

カタバミ実物

 また、ひとくちに片喰紋といっても、いくつかの種類があります。片喰、剣片喰(けんかたばみ)、丸に剣片喰(まるにけんかたばみ)、菱に剣片喰(ひしにけんかたばみ)、丸に四つ片喰(まるによつかたばみ)、隅切り角に剣片喰(すみきりかくにけんかたばみ)……。家紋の名前の美しさも、和柄に負けずとも劣りません。

 特にリズムのいいこと。家紋を読み上げただけのCDがあったら、やっぱり買うと思います。 うちのは、丸に剣片喰のようでした。丸は外の丸、剣はかたばみの葉と葉の間の部分を指すようです。

 また、調べてわかったのは、紋というのは必ずしも一家にひとつに限らず、女性だけが使う女紋というものがある家もあるとのことでした。そして、かたばみは、葉っぱの形がハート型でかわいらしいので、女性に人気の紋らしいです。おそらく祖母も、家の家紋は下がり藤で、女紋として剣片喰を使っていたのだろう、というところに落ち着きました。

 その後、家紋について、知人からこんな話を聞きました。関西では昔、嫁入り道具に、実家の紋を入れて持って行ったというのです。そうすることで将来、万が一離縁することになったときにも、自分の財産として持って帰ってこられるから、と。真偽の程はわからないのですが、いかにも関西ではありそうな話やなあと思いました。

 紋のサイトでおすすめはこちら。データベースが充実していて、すばらしいです。家紋の由来も面白く、ためになります。

  たんすの中から、見たことのない家紋のついた着物が出てきたら、みなさんも是非、正体を追いかけてみてください。

家紋の湊 http://www.otomiya.com/kamon/index.htm

(参考文献)
カジュアルきものライフ 土屋眞弓著 日本文芸社
きもの文様図鑑 長崎巌監修 弓岡勝美編 平凡社
着物のあとさき 青木玉著 新潮社
着物日常 飛田和緒著 主婦と生活社
きものでわくわく 大橋歩著 マガジンハウス
帯の常識と帯合わせ 世界文化社
TPO別きものの基本 世界文化社