着物の癒し
以上、たんすを開けることをテーマに書いてきました。
着物を着ていると、着物は本当に優しいなと感じます。よく着物で癒される、というようなコピーを目にしますが、あれは決して大げさやないなと思います。
着物の持つ癒しの力って何だろうと、ときどき考えます。足元まである一枚の大きな布に、すっぽりくるまれる安心感。絹の肌触りの良さ。綿の清潔感と、ウールの暖かさ。
でも一番大きな癒しの力は、着物に込められた、人の思いのような気がしています。うちにある普段着の着物は、どれも祖母の手縫いなのですが、その几帳面にそろった縫い目を見ていると、思わずじーんとしてしまいます。ひと目ひと目があったかいのです。
また、着物を着始めてから、母とのコミュニケーションが格段に増えました。ひとつの着物に、必ずひとつは物語が隠されています。母は着物を手に取ると、「これはなあ」と、その着物にまつわるエピソードをしゃべりはじめます。
私が同じ着物を着るたびに、同じ話をします。中には、「親戚の結婚式のために、おばあちゃんが一晩で縫い上げたんやで」、なんていう、日本昔話かいなと思うような話もあります。
そういう話をしているとき、母は、年齢を重ねた人独特の、いい顔をしています。たんすを開けるということは、封印されていた人の思いを解放することのようです。直接身にまとう人だけでなく、周りの人まで癒してくれるのですから、本当に着物の癒しパワーは強力です。

